公開日 2023年1月23日 最終更新日 2023年3月14日
2022年は世界や日本における物価高や年末に発表された日銀の事実上の利上げなど、私たちの家計に与える影響の大きい出来事が度重なり起こりました。
2023年はどうなっていくのでしょうか?今回の記事では今起きている物価の動きの理由や背景などが理解できるようになり、どうして物価が上がっているのか、日本は現在インフレなのか、なぜ急激な円安になったのか、物価高や円安でマイホーム購入や不動産価格、住宅ローンはどうなるのかなどをできるだけわかりやすく解説します。
2022年日本は値上げラッシュで物価高の1年に
消費者物価指数は2022年11月に40年ぶりに3.7%上昇
これまで安倍元首相政権から始まり岸田政権に至るまで日本政府はデフレからの脱却を図るべく「景気を回復させながら物価上昇率を2%にさせる」という目標を立ててきました。しかしながら、結果的に2022年は景気がよくならないまま消費者物価指数だけが40年ぶりに3.7%上昇しました。
景気が一向に良くならず収入が上がらないのに物価だけが上昇していくという消費者にとっては家計を圧迫し続ける苦しい局面を迎えています。一体どのような原因でこのような状況に陥ったのでしょうか?
2022年の相次ぐ食品、エネルギーの値上げ
2022年は乳製品や小麦粉や食用油など私たちの生活に欠かせない食品が軒並み引き上げられました。2022年10月には缶ビールが約14年ぶりに値上げされるなど、2022年だけでおよそ2万品目もの食品が値上がりしました。さらにガソリンや電気、ガスといった生活インフラにも値上げの波が押し寄せ、家計への負担が大きくのしかかりました。
2022年は世界の物価も高い水準で推移した
国内が物価上昇に苦しむ一方で世界に目を向けてみると、実は欧米は日本以上に高い物価水準で推移してきました。
上のグラフは2019年1月から2022年11月までの日本、アメリカ、ドイツ、フランス、中国、韓国の消費者物価指数の比較と推移を表した資料です。
消費者物価指数とは、私たちは日常生活で様々な商品を購入していて、個々の商品には価格があり,それぞれ高くなったり安くなったりして、そうした商品の価格(消費者物価)の平均的な動きを測定したものが「消費者物価指数」です。
各国の消費者物価指数(CPI)の推移を見ますと、米国と欧州の物価指数が非常に高い水準にあるのが分かります。2022年11月の米国(黄色の折れ線グラフ)の消費者物価指数は+7.1%で、ピークをつけた6月の9.1%からは減少傾向にありますが依然として高い水準で推移しています。一方、ドイツでは+10.0%(2022年11月)と高い上昇となっていましたが、10月に一旦の天井を付けた可能性があります。
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は「インフレ期待の支配を打ち破らなければならない」としており、FOMC(FOMCは”Federal Open Market Committee”の略称で、米国金融政策の方針を決める委員会)も「インフレを目標2%に戻すことに注視している」と指摘しています。
つまり、加熱したアメリカのインフレの状況を今後政策によって落ち着かせていく意思表示をしているのです。日本と欧米は同じ物価高の状況に見えて実は異なる性質を持っています。
賃金は上がらないが物価が上がり続ける日本
上のグラフは各国の1人当たりGDPの比較データ(1995年~2021年)です。グラフからもわかるように世界各国は徐々にGDPが上昇し、国が豊かになっている反面、日本は成長がほぼ横ばいで推移しています。
GDPは、「Gross Domestic Product」の頭文字をとったもので国内総生産を意味します。「Gross(グロス)」は「総」や「合計」という意味、「Domestic(ドメスティック)」は「国内」という意味、「Product(プロダクト)」は「生産」を意味しますので、訳すと「国内総生産」になります。
「国内総生産」とは、一定期間内に国内で新たに生み出されたモノやサービスの付加価値の合計額を指します。付加価値とは「稼ぎ」を意味しますので、GDPによって「国内でどれだけの稼ぎが産み出されたのか」という国の経済規模を知ることができ、主にその国の景気動向を示す目安としてよく使われています。
GDPについてもう少し詳しく説明すると、私たちが普段お仕事をしている中で、会社もしくは個人事業主として、商品やサービスという形で世の中に生み出した付加価値の合計が「GDP」です。
例えば、上の図のように食パンを100円で売った場合、作るのにかかった小麦などの原材料価格が30円だった時には、付加価値は70円として計算します。さらに、この70円から働いている人にお給料として50円を支払うと、お店の儲けは20円となります。もし食パンの作り手が個人事業主だとすると、生み出した付加価値の全てを所得として獲得することになります。
このように、生み出された付加価値であるGDPは、個人(賃金として支払われる)と企業(株式会社に利益として残る)のいずれかに分配されて、個人であれば所得税、企業であれば法人税がそれぞれ課税されますので、個人や企業の所得の一部は税金という形で政府に分配されることになります。これがGDPの経済活動における一連のお金の流れになります。
GDPは国内での一人ひとりの経済活動の産物ですので、人口の多さに影響されてしまいます。そのため、その国の平均的な豊かさを示す指標としてはGDPを人口で割った「一人当たりGDP」がよく用いられます。
そして、一人当たりのGDPの比較グラフからもわかるように各国は徐々に国が裕福になっている反面、日本はほぼ成長が横ばいで推移しています。
上のグラフは各国の平均賃金の比較グラフです(2003年~2021年)。先にも書きましたが、日本政府はこれまでデフレからの脱却を図るべく「景気を回復させながら物価上昇率を2%にさせる」という目標を立ててきました。
政府の思惑通り、最近の物価上昇が経済成長し賃金も上がりながらのものであれば理想的でしたが、これらのグラフからもわかる通り今の日本の物価は国の生産力が低迷し続け賃金も上がらない中での物価上昇であり、GDPの堅調な欧米諸国とは状況が違います。では、なぜ日本は経済が回復しなかったのでしょう?実は2017年にも似たような状況が起こりました。
2017年にも世界的な原油価格高騰で世界各国の物価は上昇しました。世界の企業は高騰した原料費を商品価格に反映させましたが、デフレマインドが浸透している日本では「値上げ」は受け入れられませんでした。結果として、値上げによる「収入増」よりも「数量減」の影響が上回り、原材料費の高騰を価格に転嫁できなかった企業の業績が低迷したという苦い経験があります。企業は上昇した原料費分を自社で消化することで、商品価格の値上げを先延ばしにしてきました。企業のコスト高の消化は利益率の低下につながります。これが日本の経済が低迷した一つの要因です。
どうして物価が上がっているのか?大きな3つの理由
2022年にそもそもなぜこのような急激な物価高が起こったのでしょうか?主に大きな要因が3つ挙げられます。
理由1. 2022年2月24日ロシアのウクライナ侵攻
ひとつ目の理由は2022年2月24日に勃発したロシアのウクライナ侵攻が挙げられます。世界がロシアに対して経済制裁を行ったことによって、ロシアから石油や天然ガスを買わないようにした結果エネルギー価格が上がってしまったのです。
結果的に日本でもガソリンや石油製品が値上がりしました。エネルギー価格の上昇は輸出入をはじめ製造や物流、製品などあらゆるところにコストが反映されるため、急激な物価高が起こりました。
理由2. コロナ禍における世界各国の財政支出拡大と金融緩和
二つ目の理由は、コロナ禍における世界各国による金融緩和です。新型コロナ感染症の拡大により世界経済は非常に大きなダメージを受けました。深刻な経済活動にダメージを受けた結果、世界の中央銀行は早い段階から大規模な財政支出拡大策を行ってきました。そして、大量の国債発行を容易にするため金融緩和を行いました。
各国の中央銀行は「金融緩和」という形で市場に大量のお金を流し込みました。この動き自体は大きな支障はなかったのですが、大量のお金が市場に供給された結果、世界的に「カネ余り」の状態になってしまいました。お金が市場に大量に流れお金の価値が下がった結果、「モノ」の値段が相対的に上がり、物価上昇、ひいてはインフレを招いてしまったのです。
簡単に言うと、コロナからの回復が見通せる段階になって経済活動が復活すると、賃金が上昇し世界中にお金が溢れ返ったことでお金の価値は下がり、モノの価値は高まりました。これが物価上昇を引き起こした本質的かつ、構造的な原因です。
世界の中央銀行の資産高と消費者物価指数(CPI)の推移はほぼ連動していて、昨今起きている世界的なインフレをもたらした本質は中央銀行の資産の膨張、つまり世界的なカネ余りが原因となります。現在のインフレは一時的な物価の上昇というよりも、構造的なインフレの可能性が高いのです。
理由3. 2022年に起こった急激な円安
さらに、物価高になってしまった理由として、今年に入っての急激な円安も挙げられます。為替レートの推移で2021年末は1ドル115円だったのが2022年10月には一時150円を超えました。
例えばアメリカで1着100ドルする洋服を例にとると、2021年末は1万1500円で買えていたものが、2022年10月になると1万5000円出さないと買えなくなってしまったのです。海外からモノを買おうとした場合に2022年に入りものすごく高いお金を出さないといけなくなってしまったのです。
2022年になぜ急激な円安になったのか?
日本がなぜ急激な円安になったのかを考えた場合に、日本と世界、特にアメリカとの金融政策の方向性の違いが大きく影響を及ぼしていることがわかります。
バブル崩壊後に長らくデフレが続いてきた日本とは異なって、アメリカは賃金が上がりやすく物価の上昇を受け入れやすい環境があり、これまでアメリカは安定した経済成長とともに賃金や物価がともに上昇し続けてきました。アメリカはアフターコロナで景気が回復してきているのに対し、日本は景気回復の兆しが全く見えませんでした。そして、異なる景気動向に対してそれぞれの政府が取った金融政策が大きな円安を引き起こす一因になりました。
アメリカは過熱するインフレに対して2022年に政策金利の利上げを行った
2021年夏頃からアメリカではコロナショックから景気が回復し、インフレ(物価上昇)傾向が強まりウクライナ情勢も相まって、ガソリンをはじめとした広範囲でインフレが深刻になってきています。2022年6月にはインフレ率が40年ぶりに9.1%となり、過度なインフレは景気後退を招くことから、FRBが政策金利の利上げにより沈静化に動き始めました。
FRBはFederal Reserve Board(連邦準備制度理事会)の略で、アメリカの中央銀行、日本でいう日本銀行(以下、日銀)に相当します。そのFRBが2022年に入り3月・5月・6月(6月は過去28年で最大の0.75%の利上げを実施)に相次いで政策金利の利上げを実施し、この間の利上げは1.5%に及び、急速に金融環境の引き締めを行い、これ以上景気が良くならないように(物価が上昇しないように)銀行の金利を高くしてお金を借りにくくしようという施策に方向転換しました。
FRBの声明文・資料によると、2023年にかけて粛々と利上げが続くことが予想されます。
世界の中央銀行が政策金利を上げて金融引き締めに動く中、金融緩和を続けてきた日本
バブル崩壊後、日銀の過去20年の政策金利は「ゼロ金利政策」と呼ばれるように0%近辺に誘導されていて、2016年1月にはデフレ脱却を目標にマイナス金利政策が導入されました。景気が悪いので金融緩和で銀行からお金を借りる時にとても安い金利(利息)で借りることができるようにしてきたのです。
日本の中央銀行である日銀は、金融政策を決める「金融政策決定会合」を年8回開催し、金融市場の調節を目的とした国債の買い入れや金融政策などを決めています。
このような政策の対照的な状況もあり、アメリカで銀行に資金を預けておくと利息が多くつき、反して日本はほぼ利息ゼロであるため、投資家はアメリカの銀行に資金を預けると利息が増え(儲かる)、円を持っていてもしょうがないという傾向になり、ドルに預け替えを行うためドルの価値が上がり、円の価値が下がる・・・ということで急激な円安が起こりました。
余談になりますが、日本の輸出産業は日本のものを外国に売るとものすごく安く買える、だから輸出産業は現在好景気となっています。円安が進み円で輸入しようとするととても高くお金がかかってしまいます。円安になれば日本製品がすごく安い、そのため海外の人が日本に来て爆買いをすることになります(インバウンド需要の増加)。
反面、輸入しようとすると円安時はものすごく高いので輸入産業は景気が悪化しています。
物価高や円安でマイホーム購入や不動産価格、住宅ローンはどうなるのか
これまで急激な物価高や円安が起こった原因について解説してきましたが、今後私たちのマイホーム購入や住宅ローン金利にどのような影響を与えるのでしょうか?
アメリカでは2022年の利上げで固定金利、変動金利ともに上昇
アメリカではFRBは2022年6月に1994年以来約30年ぶりに最大の0.75%の利上げを実施して以降、2022年12月時点でアメリカの政策金利の誘導目標は過去15年で最高水準の4.25~4.5%となりました。FRBは、価格高騰を制御するために今後さらに利上げが必要になると警告し向こう1年で5%を超える可能性があると述べています。2022年の政策金利の度重なる利上げを受けて、アメリカで高い人気の30年固定住宅ローン金利の平均は12月以降も6%を超えて2008年以来の高水準となっております。
上のグラフはアメリカの主要な住宅ローンの金利の週平均を示したものです。金利上昇の影響を受けて固定金利も変動金利も上昇していることがわかります。この金利上昇を受けて、アメリカ国民の住宅購入意欲はどう変化したでしょうか。
下記はアメリカの住宅着工件数の推移です。
アメリカでは、FRBの利上げを警戒し金利が上がる前に住宅を購入しようとする駆け込み需要と思われる動きが2021年末から2022年前半にかけて見られましたが、0.5%の利上げを決定した5月からは一気に着工件数が減っています。2022年11月時点の民間住宅着工年間戸数は、142万7,000戸となり、前年同月比では16.4%減となりました。利上げによる住宅需要の落ち込みが顕著で、インフレや住宅ローン金利の上昇により、購入意欲が急激に落ち込んだといえるでしょう。
金利の上昇、建築資材コストの高止まり、値ごろ感の低下により、FRBによる急激な金融引締めが継続される中、戸建てを中心に今後もアメリカの住宅需要は引き続き厳しい状況が続いていきそうです。
日本の固定金利が上昇基調になる理由
一方で日本はどうでしょうか?アメリカと違い日本においては固定金利と変動金利で今後の予測が異なります。
固定金利は長期金利(10年国債利回り)との連動性が高いとされています。(参考になる記事:固定金利とは?メリットとデメリットについて)10年国債利回りは2022年に入ってから上昇しており、住宅ローンの固定金利の上昇を鑑みても整合性はあります。
日本の変動金利が当面上がらない2つの理由
日本の変動金利が今後当面は上がらないだろう理由として、主に2つ考えられます。
アメリカの短プラ上昇は過熱する景気を抑えるためで日本はずっとデフレのまま
変動金利の基準金利は短プラ(短期プライムレート)という短期金利がベースとなっています。短プラは信用力の高い企業に対する最優遇貸出金利であり、日銀の金融政策の影響を強く受けます。
景気が良くならない日本では日銀による強力な金融緩和が長期化する可能性が高い中、短プラが本格的な上昇局面に入るのは当分先になると考えられます。なぜなら、短プラの上昇は住宅業界のみならず、それ以外の法人向け貸出など広範囲に影響が出るため経済全体が落ち込むことが予想されます。そのため、金融機関にとって短プラを引き上げることのハードルは非常に高いものとなっています。
過去変動金利を選択した約7割の住宅取得済み家庭に大きく影響する
日本とアメリカの住宅ローンの構成は大きく異なります。アメリカはリーマンショック以降固定金利が主流となり、変動金利の選択者は全体のうち約1割程度しかいません。変動金利選択者が約7割を占める日本とは中身が異なります。
アメリカが短期金利の利上げをした場合、経済成長を伴ってきたため家計にゆとりが生まれる中での金利上昇となるため許容範囲で、かつ、変動金利の選択者も1割程度のため経済に大きな影響を及ぼすことにはならないでしょう。しかし、日本の場合はそうはいきません。仮に日本で今後変動金利が上がるようなことがあれば過去に変動金利を選択した全体の約7割の住宅取得者の住宅ローン金利にも影響を及ぼすため、住宅ローン破綻者が続出し日本経済は混乱する可能性が出てきます。また、アメリカの現状を見ればわかる通り、利上げによる住宅ローン金利上昇によって新築住宅着工数が減り、住宅業界の業績悪化を招きはじめていることからも日本政府は短期金利の利上げには慎重にならざるを得ません。
こうした背景から、日本における住宅ローンの変動金利は今後10年ほどは安定した低金利が続くのではないかと推測できます。
まとめ
日本の住宅ローンは固定金利は上昇し変動金利は低金利が続く
上記にて説明してきたことをまとめますと、
・これまで通り日銀が金融緩和政策を維持して利上げをしないということを予想するのであれば変動金利を選ぶ
・日本銀行は金融緩和政策をやめ利上げをする場合、固定金利を選んで今の金利で固定しておく
というように未来を予測しながら、自分が取れるリスクを考えて選択すれば良いのでは、と思います。(あくまで私見ですので別の考え方もあるかもしれませんが、参考までに)
2008年リーマンショックの世界的な不況の大元は、アメリカの住宅バブルの崩壊から始まりました。
そして、新型コロナをきっかけとした物価高騰と金利上昇による世界経済への影響が今後どれぐらい続いていくのでしょうか?日本における今後の金融政策の大きなターニングポイントは2023年4月に控える日銀総裁の交代になるでしょう。私たちは今後の動向に注目する必要があります。
株式会社Erwinのマイホーム購入の相談窓口のサービス
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株式会社Erwin 代表取締役
マイホーム購入の相談窓口 代表、ファイナンシャルプランナー、住宅ローンアドバイザー、住宅FPエキスパート。不動産や住宅予算診断、住宅ローンの専門家として、第三者的な立ち位置からのお金の専門家として、その後の人生を考えた上でのアドバイスを行っている。不動産に関わる知識や税務などのライティングに携わる。