公開日 2022年12月25日 最終更新日 2023年3月14日
日本銀行は2022年12月19日から20日の金融政策決定会合で大規模緩和を修正する方針を決め、長期金利の変動幅を0.25%から0.5%に引き上げ、事実上の利上げに踏み切りました。その影響で金融市場では21日も混乱が続きました。
こうした動きが大きく関わる私たちの家計や住宅ローン金利にどのような影響を与えるのかを予測します。
2022年日銀の金融緩和策修正の目的は?
2022年12月19日から20日の金融政策決定会合で日銀は金融緩和策を一部修正しました。黒田総裁は「緩和的な金融環境を維持しつつ、市場機能の改善を図り一部見直すことを合わせて決定しました」と語り、長期金利の変動幅を0.25%程度から0.5%程度まで拡げると発表しました。このことについて黒田総裁は「利上げではありません」としながら、一方で市場は「事実上の利上げ」と捉えています。実際翌日の21日水曜日には長期金利が0.48%まで上昇しました。
市場は黒田総裁の金融緩和策修正を「事実上の利上げ」と解釈
こうした動きについて黒田総裁は「利上げではなく、出口戦略の一歩ではない」と否定をしながらも市場はすぐに反応しました。この動きを事実上の利上げと捉え円相場は1ドル137円台から一時130円台に(下記米ドル対円相場一覧表2022年参照)、また、日経平均株価も一時800円超えの下落となりました。
日銀の金融緩和策修正2022年の円安傾向が経済に与える影響を懸念して取った政策か
日銀の黒田総裁はこれまで0.25%を0.5%にすること自体は「利上げに相当する」と発言してきましたが、今回の修正については「利上げでない」と発言したため、マーケットは一時混乱しました。しかしながら、修正の仕組みを考えてみると今回の修正はイールドカーブコントロールの修正に留まっており、実際のところ政策金利や短期金利は動かしていないため「今回の修正がイコール利上げではない」という認識です。短期金利はマイナス金利、長期金利はゼロに据え置くという緩和政策はこれまで通り継続する模様で、今回の修正はしばらく為替の円安傾向が続いており、経済に与える影響を鑑みて取った政策と考えられます。
債券市場の不健全な状態にメスを入れたのか?
現在の異常な低金利下で債券市場は不健全な状態が続いてきたため、そこに対する対策とも考えられます。社債や国債を発行しようとしてもなかなか買い手が出なかったり、実際の価格が高止まりしてなかなか流通が起こらない状況というマーケットへの混乱もこれまであったため、ここに対する対応を今回1歩踏み込んだという認識もあります。
なぜ黒田総裁は長期金利の変動幅を0.25%程度から0.5%程度まで拡げたのか
表向きはこれまで0.25%で固定してきたことに批判があり、遅かれ早かれこの状態を修正し健全な市場に戻さなければならないという理由が考えられます。もう一つの理由は為替対策で、現在の円安に歯止めをかけインフレを抑制し、家計や企業に対する不安の払しょくが考えられます。
2023年4月日銀総裁交代を見据えた政策転換の一環か
一方で、今後2023年4月に日銀は総裁交代を予定しており、そこに向けた政策の転換の第1歩ではないか?という憶測があります。もしそのように考えた場合、今回のような長期金利の変動幅を今後の変更や債券購入額を減少させたり、短期金利のマイナス金利の方向転換などの可能性もあり、政策の奥行きが出てくる可能性があります。4月以降の方向転換の一環と見ることもできます。
私たちの身近な生活はどうなるのか?
緩和修正を行うことで円安は多少解消されることになるでしょう。その場合に私たちの家計への影響はどうなるのでしょうか?
水道光熱費は下がる可能性がある
現在よりも円高になった場合、エネルギーの輸入コストは下がるため電気代も下がっていく可能性があります。
海外旅行は円高で追い風に
これまでの円安で海外旅行は通常よりも費用がかさみ逆風でしたが、円高が進めばお得になります。半面、インバウンド需要は円安の恩恵がなくなり減少することが予想されます。
企業は金利負担が増え設備投資が負担増に
企業についていえば、今後円高が進む場合は銀行の借入金利の負担増によりお金を借りにくくなり設備投資に影響が出たり、長い目で見た場合に賃上げにも影響が出てくることが想定されます。(業種にもよります)
日銀の長期金利の変動幅変更による住宅ローン金利への影響は?
こうした市場の動きで注目されるのが住宅ローン金利への影響です。
「変動金利で借りようと思っているが、今後変動金利は上昇するのか?」「最初から固定金利を選んだほうが良いのか?」その他に「変動金利から固定金利への変更相談」や「繰り上げ返済」などの相談も実際増えています。また、これから変動金利への影響がどの程度出てくるのかは現段階では不透明です。
長期金利の変動は住宅ローンの固定金利に直接影響する
今回は長期金利の変動幅を拡大したため、固定金利に影響します。
例えば3500万円の固定金利を35年で借りた場合(下図参照)、変動幅を上げる以前の固定金利1.65%で返済総額は4610万円ですが、1.75%の場合返済総額は4684万円となり総額負担額は74万円の差(1年あたり2.1万円の負担増)と影響が出てきます。そのため、つまり、変動幅の拡大は住宅ローンの固定金利には今後大きく影響してきます。
今回は0.5%まで引き上げたため、過去を遡ると長期金利が0.5%ぐらいの場合、住宅ローンの固定金利は2.0%程度だったこともあり、その場合、1.65%の場合と比較すると総額負担額は260万円の差(1年あたり7.4万円の負担増)とかなりの影響が出てくることが予想されます。
上昇する前に固定金利に切り替えるのは難しい
固定金利が上昇してきそうなタイミングで上昇する前に固定金利に切り替えるという方法も選択肢のうちの1つかと思います。ただし、市場金利の一般的な仕組みの流れとしては、先に上昇し始めるのが固定金利のため、切り替えのタイミングは非常に難しいのが実態です。
住宅ローン金利上昇局面でマイホームを購入する際にライフプランを作成する
住宅ローンの金利上昇の限界値を把握しておくことが重要
これから新規で住宅ローンを組む場合に固定金利と変動金利どちらを選択する場合も最も重要なのは、一体どの程度の金利上昇なら家計上余裕をもった返済ができるのかをしっかりと把握したうえで、さらにご自身の資産状況や家計の収支状況も踏まえ考えていくことをお勧めします。
ライフプランを作成し金利負担の限界値を把握しておけば安心
新築マンションや新築一戸建て住宅を購入する場合、住宅ローンを検討し始めてから実際に自分達が融資実行するまで(自分たちが今後負担する金利が決まるまで)の期間が少なくてもおよそ1年から2年先になってきます。早々と固定金利で…と意思決定していても1年から2年もの間に当初想定していた金利から上昇していることはよくあります。そのため、仮にこの先金利上昇しても自分たちが返済できる限界値を把握しておけば、先々金利が上昇しても想定の範囲内であれば安心です。金利負担の限界値を把握するためには資金計画と人生設計(ライフプランニング)は欠かせません。
マイホーム購入の相談窓口では、将来マイホームのご購入を検討される方のライフプランの作成業務を行っております。住宅会社や不動産会社に属さない中立な立場なので、急な金利上昇でも無理なく住宅ローンの返済が可能なように、金利上昇リスクも考慮した無理のない住宅予算の設定を行うことが可能です。
株式会社Erwin 代表取締役
マイホーム購入の相談窓口 代表、ファイナンシャルプランナー、住宅ローンアドバイザー、住宅FPエキスパート。不動産や住宅予算診断、住宅ローンの専門家として、第三者的な立ち位置からのお金の専門家として、その後の人生を考えた上でのアドバイスを行っている。不動産に関わる知識や税務などのライティングに携わる。