公開日 2022年7月7日 最終更新日 2023年5月22日
大手銀行の住宅ローン金利引き上げが今後の住宅購入に与える影響
大手銀行5行は長期金利(金融機関が1年以上のお金を貸し出す際に適用する金利)の上昇基調を踏まえ、2022年6月30日に7月の住宅ローン金利を発表し、5行が代表的な固定期間10年の基準金利を引き上げる公表を行いました。上がり幅は三井住友信託銀行が最も大きく0.20%、次いでみずほ銀行が0.15%、三菱UFJ銀行、りそな銀行、三井住友銀行が0.05%で、固定10年の最優遇金利は三井住友信託銀行が1.00%、三菱UFJ銀行と三井住友銀行が1.04%、りそな銀行が1.05%、みずほ銀行が1.25%となりました。今回の住宅ローン金利引き上げが今後のわたしたちの住宅購入にどのような影響を及ぼすのでしょうか?
日本の利上げ予測による欧米の機関投資家の日本国債売りが加速
今回の利上げは長期金利(10年国債)に連動したものです。住宅ローンの固定金利と期間固定型は、長期金利(主に10年国債利回り)の影響を受けます(別記事:固定金利は10年国債の影響を受ける)。
上のグラフのように、今年に入り長期金利(10年国債)の利回りは上昇しています。世界的にインフレが加速する中、欧米の中央銀行は過熱した景気を抑制するために積極的な利上げに転じました(利上げは金利上昇により企業の設備投資などによる銀行の借入を抑制するため、加熱した景気を抑える役割があります)。金利が上がるということは、国債の価格が下がることを意味しており、日本国債だけが例外というわけにはいきません。世界的なインフレの加速が日銀もこれまでの緩和策の修正を余儀なくされるだろうとの観測です。
金融緩和政策を維持したい日銀は金利上昇を防ぐため国債を買い支える
当然、海外の機関投資家によって日本の国債市場でも売り圧力が高まっており、日銀は価格下落を回避するため、日銀は2022年2月14日に10年国債を対象に0.25%の利回りで無制限に買い取る、指し値オペを実施しました。価格を指定して国債を購入するという措置は、主要国の中では日本(日銀)だけが実施しています。日銀が金利上昇を0.25%までに抑えようと海外投資家の日本国債売りを買い支えるという構図になっています。しかしながら、海外投資家による日本国債の売り圧力があまりにも強いため、2022年6月13日には長期金利が日銀が許容する上限である0.25%を突破して0.255%まで上昇(債券価格は下落)しました。今年に入り金融市場の歪みが大きくなってきている状況ですが、そもそもなぜ海外投資家が日本国債をたくさん売ると長期金利が上昇するのでしょうか?
国債(債券)の利回りと債券価格は相反する動きの関係
先ほどもお伝えした通り、日銀は2022年2月14日に10年国債を対象に0.25%の利回りで無制限に買い取る、指し値オペを実施しました。日銀が国債を0.25%という一定の利回りで買い取る目的は、国債の価格下落(つまり利回りの上昇)を防ぐためです。
国債などの債券の利回りと債券価格は互いに相反する動きをとります。債券の(表面)利率は発行時に設定され、途中で変動することはないため、債券の最終的な利回りは、その債券をいくらで買うのかで決まります。債権を高い価格で買えば、債券の利回りは低下し、より安く買えば最終的な債券の利回りが上がります。つまり、利回りが低くなったということは債券価格が上昇したことを意味し、利回りが高くなったということは債券価格が安くなったことを意味します。
海外投資家の日本国債に対する売り圧力によって、何もせず市場に任せてしまうと、国債の価格が下がる(利回りが上昇する)可能性が高まっており、日銀が高値で買うことを保証することで、価格を一定水準に保つことを目的としているのです。
もし日銀が利上げをすると日本経済に大きな影響を及ぼす
日銀は、なぜ世界の金利が上昇しているのに国債を買い支えるのでしょうか?その理由は、今の状況で金利が上がった場合、日本経済に極めて大きな影響が及ぶからです。
利上げによって住宅ローンの金利が上昇し家計を直撃
現状の日本経済や日本政府の財政は、超低金利が続くことが大前提になっています。例えば、住宅ローンを現在借りている世帯で、住宅金融支援機構の「住宅ローン利用者の実態調査」によると、変動金利を選択している世帯は何と全体の約85%にのぼります(変動金利が59%、期間固定金利が26%)。ここ10年の間に、低金利をフルに利用して少々無理なローンを組む人が増えたこともあり、日銀がもし利上げをすれば住宅ローンの返済額が増え、これらを選択した多くの世帯の家計を直撃します。世間は生活に関わる物品やライフラインの度重なる値上げラッシュ(インフレ)で混乱を起こし始めています。日本経済がこうしたインフレに弱いのは、賃金は上がらないのに家計負担だけが増える脆弱(ぜいじゃく)な経済構造が背景にあるからです。もし仮に日銀が円安を抑えるために金利を引き上げれば、住宅ローン金利や企業の借入金利も連動して上がり、経済活動が冷えることになります。
利上げによって日本政府も影響を受けることに
また、利上げすると日本政府の予算も影響を受けることになります。現在、政府は約1,000兆円超の債務を抱えています。もし金利が米国並みに2%に上昇した場合、最終的な政府の利払い費は20兆円に達することになります。金利が2%だったのはつい最近のことですが、この水準に戻っただけで、消費税10%分に迫る金額を政府は追加負担しなければならなくなります。コロナ危機では10万円の特別定額給付金(約13兆円)をめぐって大騒ぎとなりましたが、金利が上昇すれば毎年、それ以上の負担が発生するという現実を考えるとそれ以上の国家問題となりえます。政府も日銀も民間も金利が上がると困る(国債が下落すると困る)という状況であり、結果として、日銀は指し値オペに踏み切った背景があります。
今の状況が続くことの大きな弊害は円安の加速
現在は日銀が指し値オペに踏み切っていることもあり、金利上昇は抑えられている一方で、既に利上げに踏み切っている世界経済との金利差は大きくなる一方です。この状況が続いた場合どのような弊害が出てくるのでしょうか?その弊害は為替差に顕著に表れ始めています。
世界主要国と日本との政策の違いが生む円安の加速
米連邦準備制度理事会(FRB)は、14・15日に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、1994年11月以来約27年半ぶりとなる、0.75%の大幅な利上げ(政策金利引き上げ)を決定しました。3月のFOMCでは0.25%の利上げ、5月のFOMCでは0.5%の利上げ、そして今回6月のFOMCでは0.75%の利上げとアメリカの利上げ幅は加速している状況です。FRBのパウエル議長は、「0.75%幅の利上げが標準にはならない」と釘を刺したうえで、「次の7月会合でも0.5%か0.75%の利上げを行う可能性が高い」と述べており、引き続き利上げを継続する可能性が高いです。
FOMC参加者による見通しでは、FF金利の予想中央値は、2022年末が前回3月時点の1.9%から3.4%へ、2023年末時点では2.8%から3.8%へと大幅に引き上げられました。ただし、2024年末の見通しは3.4%、中長期の平均は2.5%となっており、2023年あるいは2024年にはFRBが利下げに転じる見通しが示されています。
このことからも2023~24年までは利上げ傾向は続くものと予想されます。日銀が今後利上げに転じるかどうかは不透明ですが(2023年の日銀総裁で任期満了となるが、その後に政策が変わるかどうかは不透明)、明らかなことは日銀の指し値オペの実施によってより円安が進みやくなったことと、為替差は1~2年は開き続ける可能性があるということです。円安が進めば、当然のことながら輸入品の価格が上昇するので、国内物価にも上昇圧力が加わります。現に物品の値上げラッシュが起こっており、経済原則として、物価が上がれば必ず金利も上昇するので、いつまでも低金利と物価高を併存させておくことはできないはずです。
利上げの状況下で住宅ローンは変動金利と固定金利のどちらを選ぶべきか?
冒頭の話に戻りますが、大手銀行5行が長期金利の上昇傾向を踏まえ、代表的な固定期間10年の基準金利を引き上げる公表を行いました。これについては日銀の10年国債(長期金利)を無制限に買い取る、指し値オペが実施されている限りは固定金利や変動金利が上がり続けるということは起こらないでしょう。ただし、無期限に指値オペが実行されている状況は「正常な経済の状態」ではなく、2023年4月の日銀総裁の交代によって解除され世界の例に漏れず利上げに転じるのかどうかは不透明であり、もしそうなった場合は賃金が上がらない日本経済は大打撃を被るでしょうが金利は上昇していくことになります。その場合、真っ先に影響を受けるのは固定金利と期間固定型の住宅ローンです。
短期的には固定金利と変動金利の金利差は広がる傾向に
現在10年国債の金利上昇により、固定金利と期間固定型の住宅ローンは若干は一定期間上昇傾向になる可能性があります。フラット35(頭金10%以上・借入期間21-35年)の場合、 2022年1月 1.300%・2022年2月 1.350%・2022年3月 1.430%・2022年4月 1.440%・2022年5月 1.480%・2022年6月 1.490%・2022年7月 1.490%とこのように半年で0.19%も金利が上昇している状況です。一方変動金利は短期金利の代表的な指標である日銀の政策金利(無担保コールレート)との相関関係が比較的強く、銀行による営業戦略で金利を決めている側面もあります。一部のメディアでは「住宅ローン金利が上昇」などと報道しているが、それは一側面しか見ておらず、変動金利は今も一部の銀行では低下しています。
変動金利が一部の銀行で未だに金利が低下している理由
なぜ、世界的な金利上昇局面にあるのに、住宅ローンの変動金利は低下する傾向があるのでしょうか? 多くの銀行は、長引く不景気で企業の資金借り入れが低調なため、薄利ながら破綻リスクが少ない住宅ローンを有望な商品として積み上げたいと考えています。その中でも力を入れている金利タイプが変動金利です。変動金利は0.4%を割り込むような低金利となっており、一方で住宅ローン控除により支払った所得税等が最大0.7%戻ってくるので、実質的な金利はマイナスになることもあり、こうした事情により借り手にとっての負担感が低いため、長期固定金利の住宅ローンに比べて売りやすくなっています。また、世界的なインフレ状況にある中で、インフレを抑えるために世界各国の中央銀行は金利の引き上げに躍起になっている。一方で、日本銀行だけは低金利政策を継続しており、変動金利については「すぐに上昇しないだろう」という見方をする人も多く、変動金利に人気が集中しています。
安易に金利が低いからという理由で変動金利を選択する落とし穴
現在の状況下で、一見すると住宅ローンを借りるなら変動金利が良いのでは?と思いがちですし、住宅会社や不動産会社、銀行など売り手にとっても提案しやすい変動金利をとなりがちです。しかし、そこには大きな落とし穴が潜んでいます。仮に日銀が本当にこの先経済悪化リスクを織り込んでも世界の流れに倣って利上げに転じたら?5年ルールや125%ルールがあるから安心だと思う方は大きな間違いで、それらは返済額の制限ルールのため、金利上昇の影響は必ず受けることになります。上がった金利負担分ばかりを毎月返済し続け、結果元本がなかなか減らないという大きなリスクも起こりえます。
固定金利は変動リスクは回避できるが負担増というリスク
固定金利を選べば金利上昇の変動リスクはなくなりますが、言うまでもなく変動金利との金利差により変動金利よりも負担額が大きくなります。
まとめ
今回、住宅ローン金利引き上げが今後の住宅購入に与える影響というテーマで説明してきましたが、後半でお話した部分は結局のところ変動金利や固定金利の特徴の話なのです。つまり、どのような世の中の状況下でも大前提になるのは、私たちが住宅購入を検討する前にしないといけないことは慌てずに変動金利や固定金利のリスクや特徴を理解しつつ、ベストな選択をすることです。例えば、変動金利を検討する場合は金利が上昇した場合をある程度想定して金利を上げた資金計画を事前に立ててみることや、固定金利を検討する場合は将来の自分達の人生設計に当てはめて資金的に問題がないのか(資金ショートしないか)をチェックして住宅予算を事前に把握して住宅ローンの選択をすることが将来的にお金に困ることを防ぐカギとなります。
こうした将来わたしたちに潜んでいるリスクに関しては、残念ながら売り手である住宅会社や不動産会社、銀行は決して教えてくれませんし、将来のリスクを踏まえた資金計画を立ててくれることはまずありません。過去の記事:ベストな住宅ローンの選びかたは?
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マイホーム購入の相談窓口 代表、ファイナンシャルプランナー、住宅ローンアドバイザー、住宅FPエキスパート。不動産や住宅予算診断、住宅ローンの専門家として、第三者的な立ち位置からのお金の専門家として、その後の人生を考えた上でのアドバイスを行っている。不動産に関わる知識や税務などのライティングに携わる。